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日本の農業は生き残れるか

農業を守るために補助金を出すことは逆効果である。行政が、補助金と引き換えに営農に口をはさむと、民間の知恵が働く余地がなくなり、農業は競争力を失う。海外に輸出できるほどの競争力を持った農業は、どうすれば可能となるか。


司会 消費者である一般国民の関心は、農協が生き残れるかどうかではなく、日本の農業が生き残れるかどうかという点にあると思います。日本の農業がグローバリゼイションの中で生き残るには、どうすればよいでしょうか。

社会 日本の国土は山がちで、広大な平野が少なく、人口密度が高いので、農家一戸当たりの耕作規模が小さく、商業的な合理化が困難だ。農家一戸あたりの平均耕作面積を比較すると、西ドイツが16.6ヘクタール、アメリカが175ヘクタールであるのに対して日本は1.2ヘクタールしかない。アメリカと比べて米の生産費が7~8倍も高い原因は、耕作規模がアメリカよりも零細で、農機具費が割高になるところにある。単位収量あたりの農機具費は、アメリカの13倍だ。農機具費が高いのは、規模の大小にかかわらず、田植機から収穫用のコンバインに至るまで一式そろえるからだ。共同使用すれば、農機具費を相対的に小さくすることができるが、たいていの兼業農家は週末に偏って農作業をするので、時間差を設けてローテーションを組むことは難しいのが現状だ。しかもこの図にもあるように、専業農家が減り、兼業農家が日本の農業の主な担い手になっている。

図6 減少する専業農家数

西ドイツでは、60年と80年を比較すると、農家の数は42%減ったが、平均農地面積は65%増えた。日本は農家の数が23%減ったが平均農地面積は15%しか増えていない。もっと平均農地面積を増やさなければならない。

自由 現行の家業的経営では、海外の資本集約的農業に対抗できない。経営の近代化と協働化を進めるためにも、農地法を改めて農業生産法人の株式会社化を認めるべきだ。

社会 政府の行政改革委員会規制緩和小委員会がそういう提案をしたが、株式会社は営利企業だから、転用目的や投機目的で農地を購入するおそれがある。

自由 農地には転用ができない第一種農地と転用が可能な第三種農地、および両者の中間である第二種農地がある。この規制があるため、第三種農地以外は、土地転がしの対象にはならない。仮にこの規制がなくなっても、今後も土地需要が減少していくことから、第三種農地も転用される可能性は大きくない。また既存の株式会社、例えば食品会社や商社などで、農地を購入して農業経営をしようとするところはほとんどいない。私が念頭に置いているのは、あくまでも、農業生産法人の株式会社化であって、株式会社による農業生産法人の買収ではない。株式会社においては、所有者と経営者と従業員が区別されているので様々な組み合わせを作ることができる。例えば本業に忙しい副業的農家は、株主として自分の農地を所有したまま、経営は主業的農家に任せ、スケールメリットによる利益を配当の形で受け取るなど。

社会 農業生産法人を株式会社化すると資本家と労働者の階級対立が発生し、戦前みたいに地主が小作人を搾取するようになる。組合員が平等な立場で働ける組合法人の方が理想的だ。

自由 かつて小作人が地主に隷従していたように、今の農家は農協に隷従している。労働者の搾取を防ぐために必要なことは、農協のような独占企業を解体し、かつ労働市場を流動的にして、職場選択の自由を増やすことだ。現在多くの家業的農家が後継者不足に悩んでいるが、株式会社であれば、血縁関係にとらわれないリクルートが可能だ。

社会 農家の後継者問題は、農業収入が工業収入に比べて少なく、農業が若者にとって魅力的な職業ではないから起きる。若者が安心して就農できるように、政府は補助金を支給して農業を手厚く保護し、農民の生活を保証するべきだ。

自由 都市の若者の中には、エコロジー志向で農業をやりたいという人は以外と多い。しかも世襲で農業をする人よりも意欲的だ。農林水産省の調べによると、新規就農者の就農動機を聞いてみると、農家出身者の67%が、「農地の継承など家の事情」と答え、農家の出身者以外では、77%が、「自分で創意工夫ができる」ことを挙げている。ところが農業の労働市場は開放的ではない。ある若者は、農家の娘と結婚して農民になろうとしたが、「地域外者はお断り」と拒否されたそうだ。狭い地縁血縁の共同体にこもり、「米は一粒たりとも入れさせない」と同じ排他的島国根性で、「よそものは一人たりとも入れさせない」などと言っていたら農村は活力を失っていくばかりだ。

社会 後継者不足問題のもう一つの背景は、社会の少子高齢化だ。この傾向は過疎地で特に顕著で、これが農村の活力を低下させている。子供の数を増やすためにも、政府は保育施設を充実させるなど、女性が安心して子供を産める環境を作らなければならない。

自由 少子化は、環境問題と食糧問題を解決する上で望ましい傾向だ。食糧を自給していた江戸時代には、日本の人口は3000万人ほどだった。食料生産の技術革新を考慮に入れても1億2000万人は多すぎる。

社会 少子高齢化は、税金の受益者に対する負担者の割合を減少させるので大きな社会問題だ。出生率の低下は人口構造を大きく歪めるので是正されるべきだ。

自由 今子供の数が減っているということは、将来の高齢者の数が減るということであり、少子高齢化による人口構成の歪みは一時的な問題にすぎない。だから少子高齢化問題への対処は一時的な対策で十分で、数が少ない世代の年齢層に限定して外国人の移民を受け入れたらよい。現に北欧諸国は、一方で移民を受け入れ、他方で消費税率を高めに設定することで高負担の福祉国家を維持している。

国家 日本は単一民族国家だ。外国人の移民を認めて、日本人の民族的アイデンティティを失わせることは許せない。

自由 日本には、遺伝子的には中国系や韓国系が多く、純粋な日本人は日本列島では少数民族だ。日本は多民族国家という認識を持つべきだ。話を農業に戻すが、食糧貿易を国際的に自由化するのであれば、労働市場も国際的に自由化されてしかるべきで、人件費を安く抑えることができれば、日本の農業も国際的競争力を持つことができるようになる。

国家 失業率が上昇しているときに移民を受け入れたら、雇用問題はさらに悪化する。競争激化により賃金水準も下がるだろう。移民受け入れは絶対反対だ。

自由 日本が安い労働力の輸入を拒否し、高コスト構造を維持すると、企業が安い労働力を求めて海外に生産拠点を移転させてしまうので、どのみち雇用は悪化する。インフラ整備に過剰投資してしまった日本で産業の空洞化が進むことを避けるためにも、移民に対してももっと柔軟な姿勢をとるべきだ。実際建前とは別に、日本の農家は外国人労働者を研修や文化交流という名目で輸入して使っている。そうした偽善的なタテマエとホンネの乖離は解消されなければならない。

社会 外国人労働者は搾取の対象になりやすいし、言葉の問題もある。やはり基盤整備事業への補助金や債務の利子補給などで農業を保護し、国際競争力をつけさせる方法がベストだ。

自由 ウルグアイラウンド国内対策費として組まれた6兆100億円の予算は、農道空港を造ったりするなど浪費されている。基盤整備事業など、個人負担率を10%以下にしても申請者が出てこない県もある。岩手県のある農家は、補助金を申請しないで農地を拡大している。自分ですれば、10アールにつき20万から30万円ですむが、補助事業として業者に工事を任せると、三分の二は国や自治体が負担してくれるが、残り三分の一の個人負担額だけで40万円から50万円するからだそうだ。農家保護と称する補助金の大半はゼネコンや農協など、他の業者のために使われる。

社会 補助金なしで経営が成り立つところはそれで良い。しかし中山間地などの条件不利地域での農業には公的支援が必要だ。

自由 たしかに中山間地は、稲作をするには条件が不利だ。しかし全国どこでも米を作らなければならない必要性はない。中山間地では、キノコや山菜など標高差や季節差を利用した差別化商品を生産できる。土地の個性を尊重し、知恵を働かせれば、デメリットをメリットに変えることができる。

社会 すると政府は農業を保護する必要は全くないということなのか。

自由 農業保護は、輸入関税で行うのが原則だ。ウルグアイラウンド国内対策費は、バイオテクノロジー研究費に使うべきだ。

司会 日本はバイオテクノロジーの分野でアメリカに大きくおくれをとっています。その弊害が現れる分野が農業と医療ですね。次の章では医療の問題を取り上げることにします。

[投稿者:永井俊哉|公開日:2005年2月16日|コメント:2個]
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コメント(2)

市場原理に関し、永井様のお話を、共感を覚えながら読ませて頂いておりますが、「農地には転用ができない第一種農地と転用が可能な第三種農地、および両者の中間である第二種農地がある。この規制がある限り、…」との表現がありました。私は法律に関する知識は殆どなく、まとを外れた質問かもしれませんが、この文章は、永井さんらしくなく、土地に関する規制を容認している発想に取れました。多分、これらの土地の区分によって税金が違うのでしょうが、これこそ憎むべき規制の一つではないでしょうか?もちろん、都市計画上の必要からくる規制はある程度必要と考えますが、土地の利用方法も市場原理に任せるべきと思います。

私は無政府主義者ではないので、「すべての規制は不要である」とは考えていません。例えば、環境保護のための規制は必要な規制の一つです。しかし実際には、「環境保護」という大義名分のもと、一部の利益団体が既得権益の保護を画す場合があるので、要注意です。「環境保護のために農業に補助金/減税措置を」といった主張はその典型です。農地法にある農地転用規制は、農業振興地域の整備が目的で、環境保護規制としての性格が薄いので、農地を含めた植物生育地面積の減少を防止する規制に変えるべきだと思います。なお農地法は最近改正されました。

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